盗撮における条例と軽犯罪法
大阪市東成区に住む会社員のAさん(40歳)は,性的サービスを受けるために自宅マンションにデリヘル嬢を呼びました。
そしてAさんは,自宅マンションの風呂場に隠しカメラを設置し,風呂場を利用したデリヘル嬢の裸の姿などを盗撮していたのですが,デリヘル嬢に隠しカメラを発見されてしまいました。
その後,Aさんはデリヘル店の店長から罰金50万円の請求を受け,デリヘル嬢からは大阪府東成警察署に被害届を出すなどと言われています。
(フィクションです)
~ 盗撮に当たる罪とは? ~
今回のような盗撮が何の罪に当たるのかは,次の条例,法律を順に検討していくとよいと思います。
1 迷惑行為防止条例(以下,条例)
2 軽犯罪法(窃視の罪)
まず,条例から検討してみましょう。
~ 条例における盗撮規定 ~
いわゆる迷惑行為防止条例は,全国各都道府県単位で定められています。
各都道府県によって規定の内容が異なりますから,詳しくはインターネットなどで条例を検索して確認していただきたいのですが,盗撮行為が禁じられる「場所」は,概ね共通して
1 公共の場所,公共の乗物その他の公衆の目に触れるような場所
2 公衆便所,公衆浴場,公衆が利用することができる更衣室その他の公衆が通常衣服の全部又は一部を着けないでいるような場所
とされていることが多いかと思います。
公衆の目に触れるような場所としては,「学校の教室」「会社事務室」「更衣室」「貸切バス」などが挙げられます。
また,公衆が通常衣服の全部又は一部を着けないでいるような場所としては「シッピングセンターなどの授乳室」などが挙げらます。
次に,盗撮行為の「内容」ですが,これも概ね共通して,
1の場所では
①通常衣服で隠されている他人の「身体」又は他人が着用している「下着」を写真機,ビデオカメラその他これらに類する機器(以下,写真機等)を用いて撮影すること
②①の行為をする目的で写真機等を設置し,又は他人の身体に向けること
2の場所では
①衣服の全部又は一部を着けないでいる状態の人の姿態を写真機等で撮影すること
②①の行為をする目的で写真機等を設置し,又は他人の身体に向けること
とされていることが多いです。
1②,2②からわかるように,写真機等を設置するだけでも処罰の対象となり得ることが分かります。
* 罰則 *
罰則についても,概ね,通常の場合であれば「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」又は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」,常習として盗撮した場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」又は「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」とされていることが多いと思われます。
* 検討 *
では,Aさんの盗撮行為が条例に当たるのかについて考えてみましょう。
Aさんが盗撮のためのカメラを設置した場所は自宅マンションの風呂場ということでしたが,自宅マンションの風呂場は条例が禁じる盗撮行為の「場所」に当たらないことは明らかです。
なお,公衆とは「不特定又は多数の者」のことをいいますから,基本的にはAさんのみが利用しているAさんの自宅マンションの風呂場が「公衆が通常衣服の全部又は一部を着けないでいるような場所」に当たらないことも明らかです。
よって,Aさんの盗撮行為は条例違反とはならなそうです。
~ 軽犯罪法(窃視の罪)における盗撮規定 ~
軽犯罪法における窃視の罪は,軽犯罪法1条23号に規定されています。
軽犯罪法1条23号
正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者
* 場所に関する注意点 *
いわゆる迷惑行為防止条例では「盗撮行為を行う」場所を規定していたのに対し,軽犯罪法では「のぞき見る対象」としての場所を規定しており,さらに多くの条例が「公共の~,公衆~」と規定していたのに対し,軽犯罪法は「人の」と限定的に規定しています。
* のぞき見るの意義 *
軽犯罪法の窃視の罪における「のぞき見」るとは,物陰や隙間などからこっそり見ることをいうとされており,方法は問いません。
望遠鏡で見ることはもちろん,カメラやデジタルカメラ,ビデオカメラ,それらの機能を備えた携帯電話,スマートフォンによって写真や動画を撮ることも軽犯罪法の「のぞき見」るに当たると解されています。
では,カメラやビデオカメラを浴室内に隠して設置し,行為者が直接視認しないまま隠し撮りや遠隔操作の方法などで撮影し,その後,記録媒体を回収してから再生するような場合は「のぞき見た」と言えるのでしょうか?
この点,直接視認することによりのぞき見られた場合でもカメラ等で撮影された場合でも,被害者のプライバシーが侵害されたことには変わりがなく,むしろ,カメラ等で撮影された場合の方が,繰り返し何度も見られたり,第三者にデータが渡ったりする危険があり,プライバシー侵害の程度が高いのであるから,人の個人的秘密を侵害するような行為を禁止するという本号の趣旨からは,カメラ等による撮影自体が「見た」に当たり,撮影の時点で既遂となると解すべきとされています(福岡高裁平成27年4月15日判決など)。
盗撮した時点で既遂となるということは,後で写真や動画を見なくても軽犯罪法の「のぞき見た」に当たるということになります。
* 検討、罰則 *
Aさんの自宅マンションの風呂場は,「人が通常衣服をつけないでいるような場所」に当たります。
また,上で説明した「のぞき見る」の意義に照らすと,Aさんが撮影できる状態の小型カメラを設置し,撮影できていれば「のぞき見た」に当たる可能性が出てくるのです。
軽犯罪法違反の罰則は,拘留又は科料です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,盗撮などの刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。
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